科学研究費補助金・新学術領域研究（新ハドロン）・公募研究 研究報告

格子QCDを用いたハドロン相互作用及びマルチクォーク系の研究

• メンバー
  研究代表者 ： ��橋徹 （群馬工業高等専門学校）[個人ページ]
  連携研究者 ： 延与佳子 （京都大学理学研究科）
  
• 課題番号
  22105508 （平成22年度〜23年度）
• 研究の目的・概要
  原子核・ハドロンの系を支配するSU(3)ゲージ理論である量子色力学（ＱＣＤ）に対する有力な非摂動的手法である格子ＱＣＤ計算を用いて、ハドロン間相互作用を理解することを目指す。近年、格子ＱＣＤを用いて、ハドロン間相互作用にアクセスすることは現実的テーマとなってきたが、まだその起源などは未解明のままである。また、ストレンジクォークやチャームクォークを含むような系の相互作用もわかっていない。これらの相互作用を知ることは、多彩なマルチクォーク粒子の性質の解明につながるのみならず、クォーク多体系の性質を演繹することにもつながり、大変重要な物理である。さらに、これら重いクォークを含むハドロンの相互作用には、クォーク・グルーオンの自由度がより見えてくる可能性も高く、中間子論ではアクセスできない物理を解明できる可能性がある。本研究の目的は、ハドロン間の相互作用をクォーク・グルーオンの自由度から理解することである。
• 平成22年度 研究の進捗と成果
  

  1. 概要・手法

     SU(2)格子ＱＣＤを用いて、SU(2)QCDにおけるバリオンであるダイクォーク間の相互作用の研究を行った。中でも、基底状態ダイクォークである、スカラーダイクォーク間の相互作用に着目した。 SU(2)QCDにおいては、スカラーダイクォークは、スピン0・アイソスカラーであり、 ダイクォーク間で交換されるボゾンが限定され（例えば、π中間子交換が起こらない）、相互作用がよりシンプルになるため、ハドロン間相互作用の起源にアクセスしやすいと期待される。 また、フレーバーを変えることにより、ダイクォークを構成するクォーク間のパウリブロッキングの効果をon/offできるので、近距離領域における強い斥力の起源を確かめることができると考えられる。

  2. 結果

     ダイクォークを構成するクォーク間に同種粒子が存在せず、Pauli blockingの効果が無い場合は、ダイクォーク間ポテンシャルは常に引力（図１）であり、クォーク質量が軽くなるほど引力が強くなることを確かめた。 また、ダイクォークを構成するクォーク間に同種粒子が存在し、Pauli blockingの効果が存在する場合は、ダイクォーク間ポテンシャルは近距離領域で斥力を示す（図２）ことを確かめた。引力の場合と同様に、クォーク質量が軽くなるほど斥力は強くなる。 Pauli blockingがある場合と無い場合の差、つまり、クォーク交換の寄与をプロットしたものが図３であり、Pauli blockingの効果は純粋に斥力を生み出していることがわかる。これは、岡・矢崎によるcolor magnetic相互作用が斥力の起源であるというシナリオとコンシステントである。

     図１		ダイクォークを構成するクォークに同種粒子が存在しない場合（クォーク間のPauli blockingが存在しない場合）のダイクォーク間ポテンシャル。横軸はダイクォーク間の距離。単位はlattice unit。近距離領域での斥力の兆候は見られず、クォーク質量が軽くなるほど引力が強くなる。 また、クォーク質量が重い領域（κ=0.1350, 0.1400）ではポテンシャルからクォーク質量依存性が消える。これはクォーク質量などに依存しないuniversalな引力が存在することを意味する。
     図２		ダイクォークを構成するクォークに同種粒子が存在する場合（クォーク間のPauli blockingが存在する場合）のダイクォーク間ポテンシャル。横軸はダイクォーク間の距離。単位はlattice unit。近距離領域での斥力が見られる。クォーク質量が軽くなるほど斥力が強くなる。
     図３		Pauli blockingがある場合と無い場合のポテンシャルの差をプロットしたもの。この量は、Pauli blocking(クォーク交換)がポテンシャルにもたらす寄与を与えている。Pauli blockingの効果は純粋に斥力的であることがわかる。また、クォーク質量が軽くなると生み出される斥力も大きくなる。

     他にも、ダイクォーク間ポテンシャルにおいて、いくつかの特筆すべき特徴を見出しており、

     • クォーク間のPauli blockingが存在しない場合は常に引力
     • 近距離領域での斥力を生み出すには、クォーク間のPauli blockingが必要不可欠
     • 相互作用レンジは、ほとんどクォーク質量に依存しない
     • クォーク質量・チャンネルに依存しないuniversalな引力が存在する
     ことをつきとめた。

  3. 展望

     この計算はSU(2)QCDであるが、基本的な諸性質はSU(3)でも同様だと考えられる。 特に、universalな引力は、クォーク質量・チャネル非依存であることから、グルーオン的な効果が起源だと考えられるので、現実のSU(3)QCDにおいてもuniversalな引力が存在すると予想される。計算するチャネルなどを工夫することにより、これら相互作用の起源を解明していく予定である。

• 論文・紀要・会議録
  
  1. Hadron-hadron interaction from SU(2) lattice QCD
     Physical Review D (in press)
     arXiv:0912.0691
     Toru T. Takahashi and Yoshiko Kanada-En'yo
• 学会・国際会議講演
  
  1. Hadronic interactions via lattice-QCD
     "QCD from the Bound States' Perspective"
     ECT*, Italy, August 2-6, 2010
  2. 格子ＱＣＤを用いたハドロン間相互作用の研究
     日本物理学会分科会
     九州工業大学, 2010年9月11日〜14日
  3. SU(2)格子ＱＣＤを用いたハドロン間相互作用の研究
     第65回日本物理学会
     岡山大学, 2010年3月20日〜23日